INTPにこの世はかなり難しい

なんとか人間やってます

周易に挑戦している話

フィリップ・K・ディックの小説『高い城の男』に、易(えき)という占いが登場する。易は卜占(ぼくせん)の一種で、タロットカードやおみくじのように「偶然出てきた結果にも、なんらかの必然的な意味がある」と考えて人生に役立てようとする技術であり、この易について解説したのが『易経(えききょう)』という書物だ。

古代中国で発達した易にはいくつか種類があったものの、現代まで伝わっているものは周易(しゅうえき)と断易(だんえき)の2種類だけらしい。どちらも筮竹(ぜいちく)などを使って卦を立てるが、周易は『易経』を参照しながら卦を読み解くのに対して、断易は『易経』を使わずに十二支など別の要素を足して吉凶を予測するシステムで、似ているようで全然違う占術なのだとか。

卦を立てる手順には、「本筮法(ほんぜいほう)」「中筮法(ちゅうぜいほう)」「略筮法(りゃくぜいほう)」の3種類がある。本筮法(ほんぜいほう)は工数が一番多くて時間も一番長くかかり、略筮法(りゃくぜいほう)は最もお手軽で時間が短く、中筮法(ちゅうぜいほう)は工数の面でも時間の面でも本筮法と略筮法の中間にあたる。タロットカードで例えるなら、本筮法がケルト十字やホロスコープ ・スプレッド、中筮法がギリシャ十字やダビデスター・スプレッド、略筮法がワンオラクルやツーオラクルのようなイメージだろうか。工数の多い手法の方が偶然性に委ねる回数も多くなるので、より大きな問い・複雑な問いに対応しやすいのだと思う。

易占いを専門にしているプロの占い師は筮竹と呼ばれる細長い竹の棒を50本使って占うが、素人の私が道具を一式揃えるのはハードルが高いので、代わりにコインやダイスで占っている。コインを投げる方法は『高い城の男』でも登場キャラクターたちがやっている方法で、もしかしたら作者のフィリップ・K・ディックも同じやり方をしていたのかもしれない。

コインやダイスを使った易の中でも、以下の2種類のやり方は日常生活に取り入れやすいように感じた。(参考:易経ネット「占い方」
①3枚のコインを6回投げる方法(擬似中筮法)
②8面ダイス2個と6面ダイス1個を振る方法(擬似略筮法)

①の擬似中筮法を使うときは「今月の運勢はどんなもの?」や「転職先の人間関係はどんなもの?」といった、オープンクエスチョン型の漠然とした質問をするようにしている。また、擬似中筮法は本卦(ほんけ)と呼ばれるメインの占い結果に加えて、之卦(しか)と呼ばれる本卦の発展系の卦や、互卦(ごか)・裏卦(りか)・賓卦(ひんか)といった、メインの占い結果の隠れた事情・裏にある本心・周囲からの見え方についても占うことができるので、問いの内容と占い結果について複数の視点から考える手助けをしてくれる。

それに対して②の擬似略筮法は、答えがYES/NOの二択になるようなクローズド・クエスチョンや、一問一答式の占いに向いている。例えば「今日1日の運勢は?」とか「今夜は会社帰りに外食してもいい?」とか。擬似略筮法では基本的にシンプルな問いかけをするので、変卦(互卦・裏卦・賓卦)は見ないことにしている……が、互卦くらいは見てもいいかもしれない。

擬似略筮法には6枚のコインを1回投げるだけ、という方法もあるけれど、通勤途中や会社の休憩時間にやるとちょっとした不審者になってしまうので、TRPG用などに開発されているサイコロアプリを使うと便利だ。私は「ダイスふる」という無料のiOS版アプリを使っている。

apps.apple.com

9月の運勢を占ってみた

易経ネットの3枚のコインで占う方法を読みながら、さっそく擬似中筮法で今月の運勢を占ってみた。
まず3枚のコインを6回投げる。結果は、1回目:裏裏裏、2回目:表表裏、3回目:表裏裏、4回目:表表裏、5回目:表表表、6回目:表裏裏の組み合わせだったので、初爻:老陽、二爻:少陽、三爻:少陰、四爻:少陽、五爻:老陰、上爻:少陰となった。そして、上爻を一番上、初爻を一番下になるように(上から6回目→5回目→4回目→3回目→2回目→1回目の順番に)それぞれの記号を並べたら、六十四卦一覧の図と見比べて同じ形の図形を探す。今回は上半分の上卦(じょうか)が震(雷)、下半分の下卦(げか)が兌(沢)の形になり、54番の雷沢帰妹(らいたくきまい)が本卦(ほんけ)である。雷沢帰妹の掛辞(かじ)は「進めば凶、よいことはない」で、キーワードは「結婚」。今はじっと耐え忍ぶ時で、行動を起こすべき時ではない、というイメージだろうか。

今回の本卦は初爻が老陽、五爻が老陰なので、『易学啓蒙』に倣うのであれば、五爻を優先的に見つつ、サブ的に初爻も確認することになる。*1 五爻の爻辞は「帝乙が妹を臣下に嫁がせたとき、花嫁衣装は副妻のそれよりも質素であった。だが、満月に近い月のように、ゆかしい婦人の輝ける徳があった。吉」。初爻の爻辞は「副妻として嫁ぐ。片足の悪い人が無理をせず歩いていく。進んで吉」。54番の雷沢帰妹は原則「進むな、止まれ」という黄色信号や赤信号のような意味合いだが、五爻と初爻の爻辞を読むと「ゆっくり慎重に進めば、悪い結果にはならないだろう」といった意味合いになりそうだ。

本卦の確認が終わったら、次は之卦(しか)を確認する。初爻の老陽、五爻の老陰の記号を反転させると、上半分の上卦(じょうか)が兌(沢)、下半分の下卦(げか)が坎(水)の形になり、47番の沢水困(たくすいこん)という卦に変化した。卦辞は「願い事は叶う。困窮するが、苦しい中に正道を貫き、大人の態度を持すれば吉であり、問題はない。いくら釈明しても信じてもらえないから、沈黙を守る方がよい」。キーワードは「進退窮まる」「困窮」。人として正しい生き方をするように努め、落ち着いた大人の態度を保ちましょう、言い訳せずに必要とあらば早々に謝ってしまいましょう、という感じだろうか。之卦は将来の可能性や今後の展開を暗示すると言われているので、本卦の「進むな、止まれ。ただし、ゆっくり慎重に進めば悪い結果にはならないだろう」というメッセージと併せて考えると「とにかくめちゃくちゃ慎重に行動して、トラブルが起きても起きなくても大人の態度で冷静に対処し、最悪の事態を回避しましょう」と言われている感じがする。

ちなみにこの沢水困は四大難卦というものの一つらしく、別の説明を見たら「困難の極み、終わりの悩み」と書いてあった。ものすごい厳重に「注意しなさい」って言われとるやんけ~!とちょっと笑ってしまった。

変卦(互卦・裏卦・賓卦)も読んでみた

互卦(ごか)は本卦の隠れた事情、裏卦(りか)は本卦の裏にある本心、賓卦(ひんか)は周囲からどのように見えているか、をそれぞれ占うための手法だ。

54番の雷沢帰妹の互卦(ごか)は上卦が坎(水)、下卦が離(火)で63番の水火既済(すいかきせい)となり、卦辞は「小さな願い事は叶う。ただし正しい道を守り続けた場合にのみ利を得られる。初めは吉だが、終わりは乱れる」。キーワードは「完成」。爻辞は全体的に「慎重であれ」「警戒せよ」「見た目の絢爛さよりも真心が大事」「無理をしないこと」という印象の内容が多く、本卦と併せて考えると「物事を進めようとせずに慎重な態度で現状維持をするのがよろしい、目先の願いは叶えられても後で苦労するぞ」と言われている気分になる。

裏卦(りか)は上卦が巽(風)、下卦が艮(山)で53番の風山漸(ふうざんぜん)となり、卦辞は「女が正しい順序を守って結婚するのは吉。ただし正しい道を守り続けた場合にのみ利を得られる」。キーワードは「進む」。こちらの爻辞も全体的に「慎重に行動せよ」「優先事項は災いの回避」「堅実さが肝要」といった雰囲気で、本卦と組み合わせると「本心では進みたいと思ってるんでしょ?でも駄目だよ」という感じのメッセージになりそうだ。

賓卦(ひんか)は上卦が巽(風)、下卦が艮(山)で53番の風山漸(ふうざんぜん)となり、裏卦(りか)と同じ卦が出た。賓卦は他者から見た様子を表すので「本人は前に進もうとしてるけど、空回りしてるね。やめておけばいいのに」というイメージだろうか。問題行動ではないが、やること成すこと裏目に出てしまうというか……。

ちなみに互卦・裏卦・賓卦の出し方は仕組みがパズル的というか、数学を利用したトランプマジックのようなものなので、本卦と似た方向性のメッセージが出てくるのは「易を作った人がそういう風にシステムを組んだから」なんだろう。偶然性に左右されて卦が変化するという点では、本卦と之卦が最も卜占らしい卜占と言えるかもしれない。

 

10年くらい前に易のやり方を調べたときはものすごく複雑な仕組みに感じてほとんど理解できなかったのに、改めて調べてみたらするっと理解できたので、人間の脳みそって不思議やな、年齢で変わるのは味覚だけじゃないんやな、とちょっと感動している。

*1:易学ネットでは『春秋左氏伝』の見方を採用しているため、老陽(裏裏裏)か老陰(表表表)の組み合わせが2回以上出た場合(変爻が複数ある場合)は「本卦の掛辞を読む」だけでOKだそうだ。今回は卦の読み方を練習する目的もあり、色々と細かく確認する『易学啓蒙』の手法を踏襲している。