INTPにこの世はかなり難しい

なんとかヒト型保ってます

読書メモ(1)ヴェーダ占星術について

インド占星術について興味が出てきたので、KindleでMari Silva (2020) Vedic Astrology: The Ultimate Guide to Hindu Astrology and the 12 Zodiac Signsという本を買った。ペーパーバックだと2000円するのに、電子書籍は約300円…ありがたや…あまりにもありがたいのでシリーズのSun Signs (2020)とMoon Signs (2021)も買った…全部合わせて約1000円…ありがたや…

Vedic Astrology (2020)の第1章は、ヴェーダ占星術(古代インド占星術)の概要や歴史、文献情報について書かれている。

Vedic AstrologyはJyotishyaとも呼ばれ、他にもJyotish、Jyotisha、Hindu Astrology、Indian Astrologyといった異名がある。Jyotishyaはサンスクリット語で「光の科学」を意味し、自己理解とその深化が個人の成長に大事である(そして、そのためには天体が個人に与える影響をよく理解せねばならない)、という考えに基づいている。また、この思想はSana Dharma(西洋ではヒンドゥー教として知られる)にも共通している。Hindu Astrologyという名称は19世紀初頭から使われるようになった。1970年ごろからはヨガやアーユルヴェーダのおかげで、西洋でもHindu Astrologyが注目されるようになってきた。

Vedic Astrologyはヒンドゥー教におけるカルマと輪廻の思想に基づいている。カルマの状態を分析することで、現在の自分の行動が今生にもたらす影響、前生が今生にもたらす影響を知ることができる。

Vedic Astrologyは6種類あるVedanga(バラモン教の宗教儀礼の手引書群)のうちの一つで、Vedanga Jyotishaとも呼ばれる。ある宗教儀式を実施するのに最適な運勢の日や、日蝕・月蝕が起こる日に避けるべき行為を調べるなど、当時の人々にとってJyotishaはとても大切な生活ツールだった。

Vedic Astrologyはおおまかに3分野に分かれ、それぞれSiddhanta、Samhita、Horaと呼ばれる。Siddhantaは天文学の占星術への応用、Samhitaは西洋占星術におけるマンデーン占星術に相当し、Horaは未来予測に使われる。Horaの中でもたくさんの技法があり、Vedic Astrology (2020)で紹介されているものは以下の10種類。

・Jatak Shastra…Hora Shastraとも呼ばれ、ネイタル図(クンダリ)を用いて占断する。

・Muhurat (Muhurtha)…エレクショナル占星術とも呼ばれ、大事なイベントに最適な運勢の時期などを予測する。*1

・Swar Shastra…Phonetical Astrologyとも呼ばれ、名前などの音の響きで占う。

・Prashna Shastra…Horary Astrologyとも呼ばれ、質問者が問いを立てた瞬間の時刻を用いて占断する。

・Ankajyotishya (Kabala)…Numerology(数秘術)とも呼ばれ、数字を使って占う。

・Nadi Astrology…古代インドの賢者たちによって、人間一人ひとりの運命はすでにNadiの葉に記されているという世界観をベースとする。本来(本式?)のNadi Astrologyは依頼人の親指の指紋を分析して占断する。個人鑑定向け。

・Tajik Shastra…Varsha Phalaとも呼ばれ、ソーラーリターン図をベースに占う。

・Jaimini Sutras…古代のインド人占星術家Acharya Jaimini*2の記した文献や理論に従って占断する。従来の方法や規則とは異なる部分がありつつも、数学と天文学に基づいて非常に正確な鑑定が可能である。

・Nast Jatak…失われたホロスコープの再現を試みる技法。*3

・Streejatak…女性の鑑定のみに特化した技法。

 

〜ここからは個人的に調べたこと〜

Vedic Astrologyは北インドにルーツのある占星術で、North Indian Astrologyとも呼ばれている。南インドにはSouth Indian Astrologyと呼ばれる占星術の伝統があり、親指の指紋を使って占う伝統占術Nadi Astrologyの世界観をベースとしている。英語で調べた限り、Nadi Astrologyといえば親指の指紋鑑定を主に指すようで、Vedic Astrology (2020)がなぜHoraのサブカテゴリにNadi Astrologyという名前でSouth Indian Astrologyを採用したのかは不明。親指鑑定のNadi Astrology同様に、人間一人ひとりの生い立ちや人生に起こる出来事は全て古代の賢者たちによって書き記されたものであり、星の動静を用いてその内容を読解することが未来予測に役立つ……という思想を理由にNadi Astrologyという名前で組み込んだのかもしれないが、HoraのサブカテゴリにNadi Astrologyという名前で位置付ける手法に、北インド中心主義的(都会中心主義的)な視点の偏りを感じざるを得ない。そこは素直にSouth Indian Astrologyって名前で別項立てちゃっていいのでは?

Vedic Astrology(仮に「北インド式占星術」とする)は依頼人のネイタル図を重視し、トランジット天体の情報と併せて未来予測することを主な目的とする。ただし、この場合の「未来予測」とは、様々なライフイベントの開始日や実行場に適した運勢の時期を見定めることに重きがあり、宿命云々はあまり関係がない。バラモン教徒やヒンドゥー教徒たちが宗教儀式を執り行うのに最適な時期や日程を選ぶためのツールなので、「前生の宿命やカルマが遠因となり、私はその日に儀式ができません!」とかなったら困るわけです。今生で宗教儀式を成功させることの方が、優先順位が高い。

それに対してNadi Astrology(仮に「南インド式占星術)とする)は、宿命論的な側面が強い。なぜなら、我々一人ひとりの運命は微に入り細に入り、古代の賢者たちによってNadiの葉に記述されているという神話の世界観に立脚しているから。このため、北インド式占星術と比べると、南インド式占星術は個人の自己理解とその深化に重点が置かれている。その人の今後の人生において、いつ何時にどのようなライフイベントが待ち受けているのか、すで敷かれた未来へのレールの方向性や障害物を事前に知るための技法としての性格が強い。

北インド式が任意のライフイベントに向けて最適な運勢の時期を調べるために未来(運の良い時期)を予測しようとする一方で、南インド式は依頼人の未来を過去の出来事同様にすでに決定づけられたものとみなし、未だ知られざる今生の既定路線を明らかにしようとする。このため、同じ「未来」について語る占いであるにもかかわらず、前提となる思想や性質が全く異なるため、「未来」へのアプローチの仕方も全く異なる2種類の星占術であることが分かる。北インド式が「自分の運勢の波を先取り学習した上で色々なライフイベントを成功させよう」系なら、南インド式は「自分の人生に起こるライフイベントを先取り学習した上で対策しよう」系だ。単に「チャートの描き方が違う」といった、表層的な次元に留まる話ではない。

「インド占星術」について調べるときは、話し手が北インドのVedic Astrologyにルーツを持つ占星術について話しているのか、南インドのNadi Astrologyにルーツを持つ占星術について話しているのか、よくよく確認する必要がある。*4

そうは言っても、西洋占星術に比べたらNorth Indian AstrologyもSouth Indian Astrologyも宿命論的要素マシマシよね~って話ではあるのだけれど。Vedic Astrologyの流れを組む北インド式占星術の方が、Nadi Astrology系の流れを組む南インド式占星術よりも宿命要素が弱い点については意識しておいた方が良さそう。でないと「インド占星術=前生・カルマ・宿命論」という色眼鏡で見ることになってしまうので。インド占星術やってます!って人がいたら、北インド式か南インド式かの確認くらいはしても良いかも。

*1:本書には書かれていないがエレクショナル占星術とのことなので、旅行の出立日や習い事を始めるのに良い日などを占うと思われる。

*2:https://en.m.wikipedia.org/wiki/Jaimini

*3:西洋占星術でいうところのレクティフィケーション(出生時間の割り出し)に相当するのではないかと思う。

*4:北インド式・南インド式の簡単な見分け方として、南インド式占星術はホロスコープを作成した際に「チャートの左上のマスが必ずうお座になる」というものがある。この様式は南インド式占星術に特有のルールのようで、北インド式占星術にこのような決まりはない。